目立てについて
チェーンソーの目立てについて試行錯誤をした結論をまとめて見ました。 |
<石を切った刃>(91VP) | 2011.7.23 | |||
切れなくなったというので持ち込まれてきたチェーンソーの刃の写真です。 石などの硬いものを切った場合は、一瞬にしてこうなります。 真ん中の写真は切れなくなったのに、無理矢理切ろうとしてこんな状態になったようです。 一番ひどく壊れているところが、一番切削に関係している部分だと思います。 |
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一瞬石に触っただけですが、先端が吹っ飛んでしまっています。 | 石を切ったのに、そのまま使い続けるとこうなってしまいます。 | これも同じですが、大きく欠けてしまっています。 | ||
上の写真をトレースしたのが下の図です。 欠けてしまっているのがワーキングコーナーなので、切削にはこの部分が機能していることがわかります。 ワーキングコーナーの上側もですが、横も大きく欠けているので、切削にはこの部分も大きく関係していることがわかります。つまり、上刃だけを研いでも切れは改善しないと言うことです。 |
木を切っていて、切れなくなった刃(25AP) | ||||
杉の切り株を切るのに、チェーンソーを無理な形で操作したら突然切れなくなりました。 拡大すると、刃先が曲げられていたり、欠けていたり、めっき部分が剥がされたりしていました。 石などの硬いものを切らなくても、バーを無理に操作すると刃先が壊れてしまいます。 |
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左の刃先のめっきが剥がし取られてしまいました。 |
左側の刃先の光って見える部分は、変形しています。 右側の光っている部分は、反動で削れた部分です。 無理な使い方をすると、後ろ側が傷だらけになります。 |
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ワーキングコーナー、特に上刃の部分は大きく欠けてしまっています。 | この刃も同じように欠けています。 | これも同じ場所がひどく欠けています。 | ||
もっと横の位置から見ると、結構深い位置から欠けています。 | こちらの刃先は、上刃が下に曲げられています。 | こちらも同じです。 これを上から見ると、上刃の先の方が光って見えます。 |
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針金を切った73LPX 積んであった丸太の中に針金があったらしく、突然切れなくなりました。 片側の列だけ刃先が潰れていました。 |
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赤丸の部分が潰れてしまいました。 これでは食い込みません。 |
緑の点線のところまで刃先を落とさないといけませんが、手作業では大変です。 グラインダーで削る事にしました。 |
先端だけでなく、刃の部分も少し変形しています。 |
通常の使用で、切れ味が悪くなった刃 | ||||
91VXL | ||||
上の写真をトレースしたのが下の図です。(91VXL) カッティングポイントのあるワーキングコーナーの部分の潰れ方が激しくなっています。つまり、この部分が切削の一番重要な部分だという事が解ります。 横刃の方も上刃と同じように摩耗しているので、横刃も上刃と同等に機能していると思います。 なので、横刃もきちんと研がないと切れ味が悪くなるのは当然の事です。 |
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91VXL | 73LPX | |||
セミチゼルの刃は、横刃のかなり下の部分まで摩耗しています。 もしかすると、切削の時に刃も傾きながら食い込んでいるのかもしれません。 セミチゼルは横刃の働きも大きいので、横刃の目立てにも注意が必要です。 |
チゼルの横刃は切削に関係していないようで、ほとんど摩耗が見られません。 その分カッティングポイントへの負荷は大きいようなので、上刃目立て角を25°とかにして力を分散した方が良いのかもしれません。 |
そろそろ結論?
チェーンソーを使い始めてさんざん悩んだ目立てですが、最終結論は横刃目立て角のようです。 切削角は、上刃も横刃も作業条件によって55度を中心に自由に選択すれば良いようですし、上刃目立て角も0〜45度位までの広い範囲で選択できるようです。 結局、一般に行われている30度での目立ては、「一回の研磨で上刃も横刃も研げるやり方。」と言う選択肢だったようです。 横刃の立ち上がりの角度(横刃目立て角)だけは調整が非常に難しいし、ほとんど誰も着目しなかったようですが、ここの形状が一番のポイントでした。 |
キックバックが全く起きない刃 | キックバックの起きる刃 | |||
aの部分をグーフィーで研ぎ、bの部分を3.2mmの丸ヤスリで研ぎました。 上刃目立て角は15度。横刃目立て角は左が90度で右が60度。 |
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キックバックは全く無く、豆腐を切るように刃が吸い込まれていくような感覚の切れ味の刃。 切れ味は若干落ちますが、作業性は落ちません。 また、左右への振り回し(曲げて切る)の自由度も大きくなりました。 ただ、突っ込み切りはほとんど出来ません。(91VXL) |
左の刃の研ぎ方を変えると、切れ味は良くなり突っ込み切りが出来るようになりましたが、キックバックも起きるようになりました。 |
<キックバックが全く起きない刃> | ||||
上刃目立て角は15度。 | 横刃目立て角は90度。 グーフィーで研ぐとバックスロープになるし、上刃目立て角も15度で研ぐので横刃の切削角が80度になってしまうため、もう一度別に横刃の下を3.2mmの丸ヤスリで普通と同じ30度方向から研ぎました。 |
反対側から見ると、真っ平らなのが解ります。 これだと全くキックバックを起こしません。 ここの角度を85度とか75度とか色々と調整すると好みの切れ味の刃が作れると思います。 |
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<キックバックの起きる刃> | ||||
上刃目立て角が15度でもキックバックが起きました。 キックバックは横刃目立て角が原因で、鋭角になると食い込みが激しくなるために起きるようです。 |
かなり下までグーフィーで研ぎ、これも下側を3.2mmで研ぎました。 | 反対側から見ると、普通の目立てに見えます。 切れ味も普通です。 これで60度の角度です。目立て講習会で言う「横刃目立て角度は85〜90度」と言うのが、机上の空論だった事が判ります。(丸ヤスリで上刃の切削角が60度で横刃目立て角が90度なんて、ヤスリを斜めにして削るしかないのですが...10度下げて削るのはそういう意味なのかな?)実際に85度が出せれば良いと思いますが、そうするとこの写真の上の写真とほぼ同じような形になるはずです。 |
横刃の角度にこだわった研ぎ方をしているのは、Dalgon'sさんや「だん」さんでした。 また、Forest Applications Trainingの情報では、デプスを削るような平らで直角のヤスリで上刃目立て角15度、横刃は90度にし、切削角は40度(逃げ角を含むと45度)に研ぐ例もありました。 最近出荷しているオレゴンの刃も、その辺を意識した目立てをしているのかもしれません。(下の写真からの推測ですが。) |
さんざん悩んだ目立てですが、最終的には横刃目立て角がポイントだと判りました。 この辺をもっと解析していけば、もっと色々な研ぎ方が出てくるとは思いますが、とりあえずこの辺までとしたいと思います。 チェーンソーの刃は「ノミの刃だ!」と昔から言われるように、結論はそういうことでした。 最初に問題視したカッティングポイントはそれ程意味はないようです。(そもそも、理論上カッティングポイントは一番上にはできないので、一番先に木に食い込む事はありませんでした。)出来杉さんが言うように、まずは「きちんと研いで刃が付く事」ができれば大半のチェーンソーはそこそこ切れるようになると思います。 以下に、丸ヤスリで刃を研いだ場合と、平ヤスリで研いだ場合の刃の状態の模式図を書いてみました。(ヤスリは角度を表現しただけです。) 最低限必要なのは、上刃も横刃も切削角は55度前後、横刃目立て角は90度近く。と言う事ぐらいでしょうか? たぶん、上刃目立て角も本当は10度位の方が良いのかもしれませんが、そうすると横刃切削角が80度位になってしまうので、切れは悪くなると思います。
そもそもチェーンソーの刃は、上刃と横刃が直角に付いています。その上刃と横刃の切削角と目立て角という4つの要素を、一回の目立てできちんと作ろうとするには無理があります。 その妥協点が、「上刃目立て角を30度で頭を1/5出して研ぐ」という方法だったのだろうと思います。 ただ、丸ヤスリの研磨で上刃の切削角を55度にし、横刃目立て角を90度にするなんて、刃に対してヤスリを斜めに当てないと出来ません。この辺のところも一般の人が目立てを出来ない要因になっているのではないでしょうか。 チゼルの刃であれば、ダブルベベルか三コーナーと言うヤスリでワーキングコーナーの角にヤスリの角をあてて30度で研ぐか、直角のヤスリを使って45度で一回に研ぐと言うやり方があると思いますが、セミチゼルは難しいと思うので、2回に分けて研ぐかそこそこの切れ味で妥協するしかないのだろうと思います。 改めて4つの要素の意味がわかったので、それぞれの組合せを変える事によって色々な切れ味の刃が作れると思います。 ぜひ色々と試してみて下さい。 ...と言う事で、とりあえずこの辺が結論のようです...。 2012/04/13 |